プログラムノート
当日のプログラムノートです。
また、YouTubeに当日のアンコール曲《忠実な音楽の師》より〈カプリッチョ〉をアップしました。
https://youtu.be/yw6koT0GrqM
会場の雰囲気や響きを感じていただければと思います。
ファンタジーについて
ファンタジーというと、龍や魔法使いが出てくる空想文学やゲームなどが真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。音楽の場合には「幻想曲」と訳される事が多いですね。現代ではこの言葉は空想や幻想という意味合いを含んで使われているように思います。しかし、テレマンの時代にはファンタジーという言葉は今とは少し違った意味で使われていました。この言葉はもともとギリシャ語φαντασίαからきています。「見た目」といった意味の単語だそうです。少しずつ意味が変化しながらラテン語やフランス語でも使われるようになりました。そして現在のように使われるようになったのです。音楽の用語としては16~17世紀から使われ始めました。当時、楽器のための音楽といえば舞曲や即興による変奏曲のようなものが主流でしたが、そのような形式から離れ、テーマを対位法的に発展させながら作曲した曲のことを「ファンタジア」と呼びました。
バロック時代以前の考え方として、霊感とは個人のものではなく神からの賜物であるという当時の考え方がありました。つまり、神から与えられた霊感の事をファンタジーと呼んだと考えて良いだろうと思います。そのアイデアを当時の正統な技術を用いて作曲した曲をファンタジアと呼んだのでした。
19世紀以降の作曲家ならば真っ白な五線紙にそれこそ心の赴くままに音符を書き連ねることでしょう。それを当時の音楽の法則に則ってきっちりと作曲することがファンタジーですが、テレマンの時代にはすこしイメージが違ったという事です。そしてテレマンのファンタジーには更に新しい意味が付け加わりました。当時のありとあらゆる趣味を詰め込んでみようという試みです。少しだけ取り出してみると…トッカータとフーガ(第1番)、フランス風序曲(第7番)、カノン(第5番)、フーガ(第6番)、教会ソナタ(第2番)、前期古典派のソナタ(第4番)、組曲(第10番)そして当時はやりの様々な舞曲…。これはテレマンが今までに出会った様々な音楽形式を(指示はしていないのですが)まとめて楽しんでもらおうというテレマンのサービス精神からきていると思います。そして、先ほどの「ファンタジー」の意味合いからすれば、おそらくテレマンがこれまでに知ることのできた様々な国の音楽や、そこから得たインスピレーションは神様からの贈り物だと考えていたという事でしょう。
これらの形式やさまざまな舞曲は、当時音楽を演奏する人ならば「あ、これは○○だな!」とすぐに理解できるスタイルで書かれています。見た目は可愛らしい小品なのですが、そこにはテレマンのありったけの霊感と趣味が詰め込まれていて、さながらドイツバロック音楽の幕の内弁当のようになっています。みなさんもぜひ、テレマンのサービス精神を一緒に楽しんでいただければと思います。
(森本英希)
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